江戸・下町とくれば、祭りである。
ところが「下町の祭り」というと、たいがいの人が三社祭だ神田明神だ、いや鳥越だ深川だと言いなさる。ちょっと待ってほしいのである。
両国の祭を忘れてもらっちゃ困るのである。
「両国のお祭り?知らない。小さいんでしょ?」ですと?この号が出てすぐ、9 月12 日(金)〜15 日(月)にかけて行われる牛嶋神社の大祭は、かつて朝のテレビ小説「ひらり」のオープニングも飾ったのだ。墨田区中から50基の神輿が出て50 万人以上の見物客が訪れ
る、ジャンボな祭なのである。これ、知ってほしいなぁ。というわけで、今回は両国の祭を追ってみた。
なぜ?両国にはお祭りがふたつあった!
まずは町の古老を訪ね、「両国のお祭りについて教えてくださーい」と軽く質問。
すると、冷たくにらまれた。「何の祭だい?」。
いや、両国の祭、ですけど。
「お若いの。両国には牛嶋さまと天神さま、ふたつの大きな祭があるんだよ」。
なんと、祭がダブルで?
そう、実は両国界隈は、墨田公園の隣にある牛嶋神社と、江東区にある亀戸天神、ふたつの神社のお祭がともに盛大に行われるのだ。でも、これって不思議なことだ。そもそもお祭とは、地域の神様に、そこに属する氏子(うじこ)たちが感謝を捧げるもの。氏(うじ)とは名字、つまり氏子は『もとをたどれば同じ血族』の人々。同じ祖先を持つ人々が、共通の神様をまつるわけで、その神様が2 つもあるのは変だ。
「ふふ、いいところに気づいたな」と古老。
「そもそも墨田区一帯は、牛嶋さまの氏子が多い。ところが両国に流れる堅川の両岸から南のほうは、亀戸天神の氏子。亀戸は水神さまもまつってるから、川沿いの連中はそっちを拝んだわけだ。それに両国には『飛び地』も多くてな。番地は両国でも神様は天神さま
って地域もあって、入り組んでるんだ。で、両国界隈は牛嶋さまと天神さま、両方のお祭を祝うんだよ」。
なるほど、そうだったのか。
2 0 0 2 年にはふたつの大祭が合体だ。
今でもお祭になると、現在の町名でなく昔の境界線を元にした「町内会」が中心になって、お祭の準備が進む。たとえば両国で言えば、今の両国二丁目の一部は『小泉町』といって亀戸天神の氏子になる。ほかにも吉良邸跡あたりは松坂町だとか、緑の近くは相生町だとか、うーん、ややこしいのだ。
「天神さまの氏子の町内は、本当を言えば牛嶋さまの祭には関係ないんだけどさ、やっぱり手伝うわけよ。逆も同じ。今は神輿の担ぎ手も町内だけじゃ足りないからね、近所はもちろん、あちこちにある神輿の同好会なんかにも声をかけないと、祭が成り立たないんだよね」。
さて、牛嶋神社の大祭は5 年に1 度。亀戸天神は4 年に1 度。今年が牛嶋さまの大祭で、来年が天神さまの大祭。ということは、5 年
後の2 0 0 2 年にはふたつの大祭がぶつかるわけだ。どうなるんです?古老。
「そりゃもう、お祭り騒ぎさ」。
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